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農業と科学 平成22年8月
本号の内容
§ハイパーCDU(温度依存性の低い肥効調節型肥料)を利用したハクサイの減肥栽培
和歌山県農林水産総合技術センター 農業試験場
主査研究員 久田 紀夫
§強酸性バレイショ圃場におけるロングショウカルを用いた施肥改善
長崎県農林技術開発センター 馬鈴薯研究室
主任研究員 大井 義弘
和歌山県農林水産総合技術センター 農業試験場
主査研究員 久田 紀夫
和歌山県のハクサイは,主に和歌山市を中心とした紀ノ川流域において,水田裏作として栽培されている。ハクサイは,若干の過剰施肥では生育障害などの発生がほとんど認められず,肥料切れを生じると収量が減少する。このため,肥培管理においては,多肥栽培が定着し,ほ場からの肥料成分溶脱による地下水の汚染などが懸念されている。
そこで,施肥窒素量を削減するとともに施肥作業の省力化を図るため,肥効調節型肥料である被覆尿素を利用した減肥試験を行ってきたが,収量の年次変動が大きかった。その要因として,地温の変動による溶出速度への影響が考えられたことから,より安定した生産を可能とするため,被覆尿素に比べて温度依存性の低い肥効調節型肥料を利用した全量基肥施肥による秋冬どりハクサイの窒素減肥栽培について検討した。なお,温度依存性が低いとは,温度による影響が小さいことを示す。
供試肥効調節型肥料には,主に土壌微生物分解により窒素が溶出するCDU(アセトアルデヒド縮合尿素)に肥効調節材を添加したハイパーCDU(ジェイカムアグリ製)を用いることとした。ハイパーCDUには,肥効期間の違いにより短期,中期,長期の3タイプがあり,今回の検討では,本県における秋冬どりハクサイの作型に合致すると思われる短期及び中期タイプを利用した。ハイパーCDUの肥効期間の長短は,肥効調節材(溶解抑制材と分解促進材)の添加割合によって調整されており,窒素含有量の80%が溶出するまでの期間は,短期タイプで約50日,中期タイプで約75日である。また,肥料成分は,TN=30%で,肥料成分溶出の温度依存性が一般的な被覆尿素に比べて低いのが特徴である。
ハイパーCDUを施肥した区は,全量基肥施肥とした。窒素施肥量は,ハイパーCDU短期または中期で34kg/10aおよび化成10kg/10aとし,慣行比20%の窒素を削減した。慣行区の窒素施肥量は,基肥で石灰窒素20kg/10aと化成10kg/10aとし,追肥で化成25kg/10aとした。慣行区を除く試験区のリン酸,カリは,PK化成(0-20-20-4)を用いて各成分35kg/10aを全量基肥施肥した(表1)。

試験は,和歌山県農林水産総合技術センター農業試験場内ほ場(水田化黄色土,細粒質)で行った。品種は’きらぼし’を用いた。播種は128穴セルトレイに与作N8を培養土に用いて2006年8月31日に行った。定植の5日前に液肥(OKF2:1,000倍)をトレイ当たり2L施用した。基肥施肥,耕起,畝立てを9月22日に行い,9月27日に畝幅130cm,株間35cmとして2条千鳥植えで定植した(4400株/10a)。慣行区の追肥は,10月13日と10月31日に化成肥料(15-4-15-1)を窒素成分で15kg/10aと10kg/10aの2回施用し,収穫は12月11日に行った。試験規模は1区45㎡で2区制とした。初期生育調査は,10月13日に,収量調査は,12月11日に行った。
生育初期における葉長,葉幅,葉色及び窒素含有率は,ハイパーCDU短期区,中期区ともに慣行区と同程度であった(表2)。

ハイパーCDU短期区の収量は,10.0t/10aと慣行区の11.7t /10aに比べて少なかった。ハイパーCDU中期区の球重は,12.5t/10aであり慣行区と同等以上の収量が得られた(図1)。

外葉および球の窒素含有率は,いずれの区も4%程度で,大きな差は認められなかった(図2)。

ハイパーCDU短期区の乾物量は,128.2g/株と慣行区に比べて少なかった。ハイパーCDU中期区は,慣行区と同等であった。ハイパーCDU短期区の窒素吸収量は,22.8kg/10aと慣行区に比べて少なかった。ハイパーCDU中期区は,慣行区と同等であった。ハイパーCDUの窒素利用率は,短期区で48.1%,中期区で55.2%と慣行区の44.9%より高くなった(表3)。

ハイパーCDU短期区の土壌中無機態窒素量は,栽培期間の中後期において,ハイパーCDU中期区や慣行区に比べて,低く推移した(図3)。

和歌山県内のハクサイ栽培地域では根こぶ病対策として石灰窒素の施用が行われているため,ハイパーCDUと石灰窒素を全量基肥施肥したハクサイの減肥栽培について検討を行った。
ハイパーCDUを施肥した区は,全量基肥施肥とした。窒素施肥量は,ハイパーCDU短期または中期で24kg/10aおよび石灰窒素20kg/10aとし,慣行比20%の窒素を削減した。リン酸,カリは,PK化成(0-20-20-4)を用いて各成分35kg/10aを全量基肥施肥した。慣行区および無窒素区の施肥は,試験1に準じた(表4)。

試験は,和歌山県農林水産総合技術センター農業試験場内ほ場(水田化黄色土,細粒質)で行った。品種は’きらぼし’を用いた。播種は128穴セルトレイに与作N8(ジェイカムアグリ製)を培養土に用いて2007年9月5日に行った。定植の7日前に液肥(OKF2:1,000倍)をトレイ当たり2L施用した。基肥施肥,耕起,畝立てを9月24日に行い,9月28日に畝幅130cm,株間35cmとして2条千鳥植えで定植した(4400株/10a)。慣行区の追肥は,10月12日と11月7日に化成肥料(15-4-15-1)を窒素成分で15kg/10a と10kg/10aの2回施用し,収穫は12月26日に行った。試験規模は1区45㎡で2区制とした。初期生育調査は,10 月12日に,収量調査は12月26日に行った。
生育初期におけるハイパーCDU短期区および中期区の葉長,葉幅は,慣行区に比べて小さかった。葉色および窒素含有率は,いずれも試験区間に大きな差は認められなかった(表5)。

収量は,ハイパーCDU短期区,中期区ともに10t/10a程度であり,慣行区と同等であった(図4)。

外葉および球の窒素含有率は,いずれの区も4%程度であった(図5)。

ハイパーCDU短期区および中期区の乾物重及び窒素吸収量は慣行区と同程度であった。窒素利用率は,ハイパーCDU短期区で47.9%,中期区で50.5%と慣行区の41. 4%に比べて高かった(表6)。

土壌中無機態窒素量は,栽培期間を通じて,慣行に比べてやや少なかったものの,ハイパーCDU短期区,中期区とも同様の推移を示した(図6)。

ハイパーCDU(被覆尿素に比べて温度依存性の低い肥効調節型肥料)を利用した全量基肥施肥による秋冬どりハクサイの減肥栽培について検討した。ハイパーCDUと化成肥料の組合せでは,定植後約2週間の初期生育は慣行区と同等であったが,ハイパーCDU短期区の収量が,ハイパーCDU中期区や慣行区に比べて少なかった。2回目の追肥(基肥施肥後0日頃)以降において,ハイパーCDU短期区の土壌中無機態窒素量が他に比べて低く推移しており,ハイパーCDU短期と基肥の化成肥料だけではハクサイの収穫期まで生育に必要な窒素肥効が維持できないためと考えられる。
ハイパーCDUと石灰窒素の組合せでは,定植後約2週間の初期生育が,慣行区に比べて劣った。これは,施肥後約3週間では,ハイパーCDUや石灰窒素の窒素肥効が,速効性である化成肥料に比べて劣るためと推察される。しかし,収穫期における球重が慣行区と同等であったことから,生育中後期の窒素肥効が収量確保につながったと考えられる。
ハクサイの乾物生産の増加に及ぼす施肥窒素の効果は,生育初期から認められ,施肥窒素の効果が最大となる時期が結球期から収穫期である1)との報告がある。本試験では,2006年度における生育初期の葉長,葉幅の長さと1回目の追肥(基肥施肥後20日頃)までの土壌中無機態窒素量の推移および2007年度における収量と結球開始期である2回目の追肥(基肥施肥後40日頃)から収穫期までの土壌中無機態窒素量の推移をみると,ハクサイの生育に適した窒素肥効であったと考えられた。また,ハイパーCDUの種類や肥料の組合せの違いは,生育初期における葉色や窒素含有率に影響しなかった。
以上のことから,慣行と同等の収量を得るためには,ハイパーCDU短期を用いる場合は,速効性の化成肥料より肥効期間が長い石灰窒素2) を施用する。また,ハイパーCDU中期を用いる場合は,化成肥料,石灰窒素のいずれとの組合せにおいても,慣行と同等の収量が得られる。これらの組合せにより,追肥作業のいらない窒素成分を20%削減した全量基肥施肥による秋冬どりハクサイの栽培が可能となる(表7)。
秋冬どりハクサイ栽培においてハイパーCDUを用いることで,窒素肥料を慣行比の20%削減しても慣行と同等の収量が得られることが明らかとなった。また,基肥全量施肥のため,追肥作業の省力化も可能となった。しかし,ハイパーCDUは窒素の単肥肥料であるため,リン酸やカリを含んだ製品の開発が,現地への普及を促すものと期待される。
1)山田和義ら(1996)
施肥窒素に対するハクサイの乾物生産,養分吸収及びゴマ症の発生とその品種間差.長野県中信農業試験場報告.13
2)下野勝昭(1987)
石灰窒素.単肥・窒素肥料.一般化学肥料13-14.農業技術体系土壌施肥編7-1
長崎県農林技術開発センター 馬鈴薯研究室
主任研究員 大井 義弘
長崎県のバレイショ産地では温暖な気候を利用し,春秋の2期作栽培が行われ,同一圃場での連作も多い。バレイショの好適土壌pHは5.5~6.5であるが,バレイショの重要土壌病害であるジャガイモそうか病は,土壌pHが5.0以上になると被害が大きくなるため,本県では土壌pHを4.8程度に低くおさえた土壌管理が行われている。本県パレイショ圃場の土壌化学性の実態を明らかにすることを目的に,2007年に主要産地である島原半島内の圃場の土壌を採集し,調査した。その結果,土壌pH(H2O)が4.8以下の圃場が全体の78.4%(内4.5以下が55.4%)を占め,そうか病をおそれるあまり生産者が圃場を強酸性状態に管理していることが明らかとなった(図1)。

土壌の強酸性化は,そうか病の発生抑制効果があるものの,過度になるとカルシウム等の吸収を妨げるため,バレイショの収量低下や,次代塊茎の芽の伸長不良の原因となる(小村ら1),写真1)。

また,カルシウムは土壌pHを上昇させることから,生産者はカルシウムを含んだ資材の施用を極力控える傾向にあるため,土壌の強酸性が進むことで施肥効率が悪くなり,さらに施肥量を増やすことで収量を維持しようとし,結果的に土壌環境や地下水等系外への悪影響となっている。このことから,そうか病の発生を助長せずに,カルシウムを効率的に供給する方法が栽培現場では求められている。そうか病の病原菌は塊茎形成初期に侵入することが知られており,串崎2)はカルシウムが塊茎形成時期から収穫までに多く吸収されることを報告している。このことから,カルシウムの初期溶出を抑えることでそうか病の発生を助長せず,カルシウムの吸収が必要な生育後半に補給できる資材として「ロングショウカル」(被覆硝酸カルシウム)に着目した。本報告ではロングショウカルを用いることでのバレイショへの収量性やカルシウム供給効果,併せて窒素施肥量削減についても検討したので,紹介する。
バレイショの品種は,ニシユタカを使用した。試験場所は長崎県雲仙市愛野町(当研究センタ一馬鈴薯研究室圃場,土壌は淡色黒ボク土)である。試験は平成19,20年に本県2期作の主要作型である春作マルチ栽培(植付:2月上旬,収穫:6月上旬)および秋作普通栽培(植付:9月中旬,収穫:12月中旬)で行った。表1に示すように窒素肥料として硫安のみの区を対照とし,それぞれ,硫安とロングショウカル40(リニア型,ジェイカムアグリ製)の割合や量を変えた区を設置した。リン酸,加里の肥料はそれぞれ過リン酸石灰及び硫酸カリウムで全区間量施用した。施肥法は条施肥で行い,肥料のみの効果を確認するため堆肥は無施用とした。

ロングショウカルの溶出率は収穫時期までに窒素が平成20年春作で75%,秋作で76%であった。カルシウムの塊茎肥大初期の溶出率は春作4月中旬で22%,秋作では生育初期の地温が高いため10月下旬で47%と高くなった(図2)。

ロングショウカルを用いた窒素施肥を行うことで化学肥料区に比べ2割減肥しても上いも重が秋作で10%以上,春作で20%以上増加した。また,秋作のみの結果であるが炭酸カルシウムを50kg併用した場合よりも10%程度増加した(表2,図3)。


また,ロングショウカルを組み合わせることで,茎葉や塊茎中のカルシウム含量が増加した(表3)。

畝内土壌pH(H2O)は,硫安にロングショウカルを組み合わせることで化成肥料のみと比べ塊茎肥大期に高まることなく,収穫時点での低下についても軽減できた。また収穫時の交換性カルシウム含量は,ロングショウカルを組み合わせることで植付時と比べ同等程度か高くなる結果となった(表4)。

そうか病の発生程度は年次間差や圃場開差が大きく圃場試験では正確なデータが得られにくいことから,直径30cmの無底枠条件下で、土壌中のそうか病菌量をそろえて検討した(写真2)。

その結果,ロングショウカルの割合を多くするほどそうか病発生は増加するが,硫安との割合を成分比で1:1にすることで慣行の炭酸カルシウムと硫安との組み合わせに比べ,そうか病の発生を軽減することができた(表5)。

本研究では硫安とロングショウカルを成分比1:1に組み合わせた窒素条施肥が,従来の速効性肥料(硫安)に比べ2割減肥しても収量は増加すること,さらにそうか病の発生を助長することなしに植物体中のカルシウム含量を増加することができることを明らかにした。また,ロングショウカルは,肥料中に石灰分が含まれるため,通常必要な炭カル等の石灰施用を省くことができた。
これらの成果は,そうか病の発生が少ない土壌pH(H2O)4.8程度以下の強酸性バレイショ圃場において,土壌化学性とバレイショ生育状況を改善する際に活用できるものである。今後,さらなる石灰供給能を高めるため,リニア型より初期溶出を抑えることが可能なシグモイド型の検討を進めたい。普及を図る上での問題点としてロングショウカルのコストがネックとなると思われる。しかし,1~2割の収量向上が図れることや,本県のバレイショ地域はリン酸やカリ成分の蓄積が多い圃場が多いことから,リンおよびカリ成分を抑えた配合を検討し,コスト抑制を図ることで現場導入を推進していきたい。
1)小村・茶谷ら
強酸性土壌の石灰質資材の影響が収穫後のバレイショ種いもの芽の伸長に及ぼす効果,九州農業研究55,47(1994)
2)串崎光男
馬鈴薯の栄養的研究,北海道農業試験場研報72,72-81 (1953)